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「塾へ行かせているのに,ちっとも成績が上がらないのはどういうわけだい?」
劈頭から怒気を含んだ電話。中1のT君の親父さんからだ。

入塾してまだ3ヶ月あまり。数学の点数は「ない」に等しかった。ほとんど何もわかっていなかったのだから。
案の定,極端に理解が遅い。それでも粘り強く指導し,正の数・負の数の足し算引き算ができるようになるまで1ヶ月半かかった。ただし,1桁の整数だけだが…。

お申し込みの時点で,「かなり時間が掛かりますよ」と念を押しておいたのに…。マア,電話で話したのはお袋さんだが。

「かなりキツイ状態ですので…」続けようとしたら,遮られた。
「『かなりキツイ状態』って,ウチのコのことかい? そんな言い方ないだろ」
嗚呼,この親父,我が子の実情を理解していないのだろうか? こっちはこれでも言葉を選んでいるんだぜ。「全く分かっていない」とか「こちらで指示を出しても,家庭学習の習慣が全くできていない」などとありのままを申し上げたわけじゃないだぜ!

怒鳴り返したくなるのを堪えて,「この状態から,3ヶ月やそこらで結果が出せれば,誰も苦労しませんよ」

「じゃあ,何かい? 半年も1年もかかるというのか?」

子供を塾へ通わせてさえおけば,3ヶ月もすれば成績が上がると本気で思っているらしい。私は魔法使いではないのだが…。

まー,しょーがない。こんなヤツをマトモに相手にしても時間のムダだから,早いところ電話を切りたかった。塾をやめていただくことを前提に。

「あんたの塾(←この部分は私の塾の名称だが,このオヤジ,間違って覚えていたらしく,架空の塾名を連呼していた)では,ウチのコに合わせて教えてくれないのか?」

意味が分からず聞き返したのだが,一斉授業ではなく,完全な「個人指導」のことを言っていたらしい。

あのさ,問い合わせのときに新聞チラシと入塾案内を渡しただろ。ウチは,「一斉授業+個別指導」のコンビネーションだ。個人指導などとは一言もいった覚えはない。
尤も,当初「このままでは絶対についてこれない」と判断したので,入塾から1ヶ月以上にわたって,定刻よりも早く来させ「個人指導」をした。もちろん無償でだ。これ以上,オレに何をしろと言いたいんだ!

「それでしたら,家庭教師か個人指導専門の塾でないと…」

どうやら誘導にのってくれたらしい。

やれやれ・・・。


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